「生涯にわたって」「0歳からのアプローチ」のコンセプトのもと、子どもたちの健康な成長・発達に対し取り組む「赤ちゃん歯科ネットワーク」。その理事を務めるのが、ひかり歯科医院院長の益子正範(ましこまさのり)先生です。胎児の時、赤ちゃんの時の「おくちの健康の大切さ」についてお話をうかがいました。
プロフィール
――まずはじめに益子先生が取り組まれている「赤ちゃん歯科」について、簡単に教えていただけますでしょうか。
赤ちゃんの頃からおくちの健康に取り組むことで、健やかに成長していくことを目指すのが「赤ちゃん歯科」です。
よく赤ちゃんのうちからおくちの健康に取り組むことで「歯並びを良くする」という結果にばかり注目をされることがあるのですが、それは純粋な「赤ちゃん歯科」としては目的が違います。もちろん歯並びに影響する部分もあると思いますが、おくちの健康はカラダ全体と関係していて「赤ちゃん歯科」の内容はもっと幅広く、多岐に渡るものになっています。
――「赤ちゃん歯科」と聞くとたしかに「歯」だけに注目してしまいそうですね。具体的などんな内容になるのでしょうか。
例えば「食べ方・飲み込み方」の口腔機能について。赤ちゃんの時の食べ方や飲み込みの仕方については、これまで臨床の現場ではあまり注目されてこなかったんです。母乳やミルクの飲ませ方(例えば、姿勢や飲む量)やそのあとの離乳食の食べさせ方(例えば、食べる時の姿勢や食形態といった固さや形)に悩む方はものすごく多いのですが、それに対する相談窓口となるような受け皿としての医療機関が少なかったんです。
疾病に対しての対応は小児科がありますが、一般の小児に関わる分野でおくちの使い方にアプローチする発達の分野、つまり「赤ちゃんのおくちの発達」に関しては誰が診るの?ということになります。また、小児科に相談したとしても「栄養士さんに離乳食の栄養指導を」となり、そうなると「どう食べさせるか?」ではなく「何を食べさせるか」になってしまいます。
何を食べさせればいいのかも栄養の観点からいうと大切ですが、どの様に食べさせたらいいのか。こういった赤ちゃんのおくちの発達に関連することで「誰にどう聞いたらいいかわからない」部分を補完していくのが、赤ちゃん歯科の役割だと思っています。
――ありがとうございます。著書の『0歳からの口腔機能と歯列の育て方』には、赤ちゃん歯科の考え方として「姿勢へのアプローチ」についても書かれていましたが。
そうですね。赤ちゃん歯科では保護者自身の姿勢の大切さに加えて、赤ちゃんに対する「寝かせ方」「抱っこの仕方」についても歯科的観点からのアドバイスも行なっています。昔の人に比べて現代人は、姿勢を維持する筋力が弱い、歪んでいる、など身体的な問題としていろいろなことがいわれています。最近だと特にスマホを見る姿勢についての問題が挙がることが多いですよね。
姿勢を維持する筋力が弱かったり、姿勢が歪んている人たちが赤ちゃんを抱っこした時、赤ちゃんが居心地の良さを感じられないことがあります。それが身体発達の中で体幹の力不足によるもの、他にも睡眠の質が悪くなることによるものなどから便秘の問題が出てくるといわれています。おくちの発育に関していえば、アゴの位置が安定しにくくなります。
――アゴの位置が不安定だと何が起こるのでしょうか?
おくちをポカンと開けた状態を引き起こしやすくなります。そうすると、おくちの筋力が安定しないので、舌が喉の奥にずるずると引っ込んでしまいます。それが先ほどの「飲み込み」や「呼吸」に必要な筋機能の発育不足を招いてしまったり、またより広い視野で考えれば、脳機能の問題にもつながるともいわれています。
――本当に分野が多岐にわたるんですね。お話を聞いていて、赤ちゃんに対しての指導というよりも、家族に対するアドバイスという印象を受けました。
「ダメなんだから、やめなさい」と、正しいことを正しく伝えた時に、大人だったら聞くし、自分のことだったら自分の責任にできますが、赤ちゃんは保護者である人が意識を持たないとできないですからね。
私自身が目指しているのはファミリーデンティスト、家族単位で来てもらう歯科医院です。赤ちゃん歯科としては、赤ちゃんのことも胎児、0歳の時から診る必要があると考えていますし、それに対する家族へのアドバイスも行える。例えば、赤ちゃんのおくちの健康でよく話題に上がるのはむし歯やむし歯菌に対する心配です。
それに対しては周囲の人のおくちケアも大事になってきます。おじいちゃん、おばあちゃんにはむし歯・歯周病対策をしっかりしてもらったり、お父さんお母さんに対してはおくちのケアも含めて定期的な検診に来てもらったり、赤ちゃんのおくちのトラブルに対するアドバイスをしたり。
そういう意味ではファミリーで来ていただくのが一番いいと思っています。
取材・記事 坂本彩乃
撮影 関大介