まだうまく話せない赤ちゃんと簡単な手話やジェスチャーでお話しする「ベビーサイン」。1980年代にアメリカ・カルフォルニア大学で研究されたこの育児法の普及を目指し、日本ベビーサイン協会を立ち上げたのが吉中みちるさんです。現在では全国に800以上の認定教室を展開し、その教室プログラム内では「SODATECO(ソダテコ)」とのコラボレーションも実現。ベビーサインを通して「赤ちゃんとのコミュニケーション」に長年向きあってきた吉中みちるさんにお話を伺いました。
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――早速ですが、ベビーサインにはどのような効果があるのでしょうか?
赤ちゃんは、泣いたり、モノを指で指したり、数少ない手段で自分の気持ちを伝えようとします。そこに「モノが欲しい時はこうするんだよ」「これはリンゴっていうんだよ」というベビーサインを教えることで、赤ちゃんは「今感じていること」や「今して欲しいこと」をどんどんお母さんに伝えられるようになります。お母さんは赤ちゃんの気持ちがわかることで育児が楽しくなりますし、赤ちゃんもお母さんに気持ちが伝わりやすくなることでストレスが減ります。
――お母さんだけでなく、赤ちゃんのストレスも減るんですね。例えばベビーサインができるようになると、赤ちゃんはあまり泣かなくなるのでしょうか?
泣く必要がなくなるんです。泣かなくても「こうやったらお母さんに伝わる」というのがわかってくると、できるベビーサインの数が少なくても、その中で自分なりに工夫して伝えようとします。また、できるベビーサインの数が多くなれば、それらを組み合わせてより複雑な気持ちも伝えられるようになってくるんです。
――ベビーサインを学んでいくと、赤ちゃんの将来にも良い影響が出るのでしょうか。
そうですね。ベビーサインを使っていくと、赤ちゃんは話す前から言葉を使う練習をしていることになるんですね。簡単にいうと、言語を使う時にはたらく脳を、サインをすることではたらかせているんです。これによって、おしゃべりをはじめる前に頭の中に「使える準備ができている単語」がたくさんできあがっていくんです。
そうすると喉や舌の筋肉が発達して心の準備も整って「いざ話すぞ!」となった時に、使いこなせる単語がたくさん出てきます。ですのでべビーサインを学んだ子たちは、ものすごくおしゃべりになります。(笑)何かを伝える楽しさをしゃべる前から知っているからこそ、伝えることに積極的ですね。
――もともと息子さんで実践されたとのことですが、息子さんもおしゃべりだったんですか?
そうですね。(笑)周囲の人だけでなく、道を歩いている人にも「ねえねえねえ!」と近寄っていって「何してる?」「どこ行くの?」「さっき何食べた?」とたくさん聞いていました。
ベビーサインを学んだ子たちはコミュニケーションがとっても上手で、楽しく会話できる子が圧倒的に多いです。小さいうちからコミュニケーション能力をみがけるので、もう少し長い目で見ると就職活動や仕事においても役立つのではないかと考えています。
――ベビーサインには、具体的にどんなものがあるのでしょうか?
生活の中で頻繁に使うものとして「もっと」と「おしまい」があります。「もっと」は指先を軽くすぼめて、両手を触れあわせる動きです。赤ちゃんが楽しんでいることを繰り返している時のサインで「もう1回する」とか「もっと食べる」という時に見せるものですね。
「おしまい」は胸の前で両手の手のひらを上に向けて、反転させて手のひらを下へ向ける動きです。赤ちゃんが「もういいよ」というのを表すもので、「ごちそうさま」のサインとしてもよく使われます。
「もっと」のベビーサイン
「おしまい」のベビーサイン
あとは片手でグーパーする「おっぱい」のサイン。おっぱいや粉ミルクを飲む時に「これからおっぱい(ミルク)飲むよ~」っていいながら教えてあげると、赤ちゃんがおっぱい(ミルク)を飲みたいなと思った時に、自然とサインをしてくれるようになります。
「おっぱい」のベビーサイン
このほかにも「痛い」「暑い」「寒い」と感情を表すものや「リンゴ」「バナナ」などモノの名前を表すものなど、本当にたくさんのベビーサインがあります。
――ベビーサインの種類はどれくらいあるのでしょうか?
教室で提供しているテキストでは全部で178種類のサインが載っていますね。そのうち通ったお子さんたちが覚えていくのが、平均で77個というデータが出ています。
――かなりたくさんのサインを覚えることができるんですね。サインひとつひとつがとてもかわいらしいです。
そうなんです。ベビーサインをしている赤ちゃんはとにかくかわいいんですよ。(笑)子どもへの愛情も深まります。
実はベビーサインの名付け親といわれているリンダとスーザンというアメリカの研究者が、ベビーサインは「生涯続く愛の贈り物」と表現しているんですね。これはどういうことかというと、「お母さんに自分の気持ちを大事に受け止めてもらえた」「自分はお母さんにとっても大切にされた」というのが積み重なっていくので、大人になった時もそれが心の奥底に残るんです。
だからとても自己肯定感のある子どもに育ちます。
「うちの子はまだしゃべれないから」と思って接するのと「楽しくおしゃべりする相手」として接するのは、まったく違ってくるんですね。卒業した子たちを見ていても、それは私自身が身をもって実感していることです。一生涯続くメリットだと思いますね。
取材・記事 クラブサンスター編集部