新しい生活や仕事、人間関係などでストレスを感じた時、どうしていますか?人によってストレスの感じ方は異なり、対処法もそれぞれ。自分なりの対処法を知っておくことがストレスをため込まずに過ごす大切なコツです。
そのために有効なのが「ストレスコーピング」という方法(単に「コーピング」と呼ぶこともあります)。ストレスの捉え方から、ストレスコーピングを使ってストレスを和らげる具体的方法まで、早稲田大学人間科学学術院の講師で『実践!マインドフルネス』の共著者でもある富田望さんに教えていただきました。
プロフィール
まずは「ストレス」について知っておきましょう。富田さんによると、ストレスは、「ストレッサー」と「ストレス反応」に分けて考えたほうがいいそうです。
「ストレッサーとは、『約束がある』『注意を受けた』といった、ストレスを起こす状況のことです。そのストレッサーを受けて、『気分が悪い』『胃が痛い』などのストレス反応が起こります」
心と身体の状態は、例えるとゴムまりのようなもの。ストレッサーの力を受けて、ゴムまりがぎゅっと押されて歪みが生じるのがストレス反応です。
ストレッサーに押されて、心や身体はゴムまりのように歪んでしまいます。これがストレス反応です。
「通常、ストレッサーがなくなればゴムまりは元に戻るのですが、力を受けすぎて潰れると元に戻りにくくなってしまいます。長い間胃痛に苦しんだり、ゆううつな気持ちが続くといった状態ですね」
ところが、同じような環境でも、負担に感じる人と感じない人がいます。ストレス反応は、ストレッサーだけでなく、個人の抵抗力によって変わるのです。考え方や捉え方、習慣、体質によって個人差があり、その個人差にはたらきかけるものを「ストレスコーピング」や「コーピング」と呼びます。
後半で説明しますが、自分なりの「コーピングレパートリー」をいくつも持っておき実践することが、ストレス反応の改善に役立つのです。
ストレス反応の強さは、ストレッサーに加えて、個人のストレッサーに対する抵抗に影響を受けます。(熊野宏昭,ストレスに負けない生活,ちくま新書,2007)
ストレスコーピングとは、どんなものなのでしょうか?
「ストレスコーピングとは、ストレスを和らげるための、考え方や行動の対処法です。いろいろな分け方がありますが、大きく『問題解決型』と『情動焦点型』があります」
『問題解決型』とは、言葉のとおり、問題を解決しようとして対処すること。例えば、ストレスを与える同僚がいたら話をして直してもらったり、上司に相談して改善策を検討するといったことがあげられるでしょう。
『情動焦点型』とは、ストレスを感じる状況を変えようとはせず、気晴らしをしたり、前向きにとらえるといった対処の仕方。おいしいものを食べる、よい面を考える、などの方法があります。
「状況をコントロールできる可能性が高いものは『問題解決型』、コントロールできる可能性が低ければ『情動焦点型』でストレスに対処するとよいと思います」
人はみな、ストレスに何らかの対処をしています。それでもうまくいかない時、その対処法、つまり「ストレスコーピング」を変える必要があるかもしれません。
ストレスコーピングを意識して実践するために、まずは自分のパターンを知ることが大事なのだとか。
「もしかすると、コントロールできる状況なのに気晴らしばかりしているかもしれません。その場合、その時はよくても長期的にはあまりよくない状況になることもあります。自分のパターンに気づくことができたら、『問題解決型』を増やしていこうというアプローチができますよね」
精神的につらい状況に遭遇した時を思い出し、どんな行動や考え方をしていたか、振り返ってみるとよいでしょう。
記録を付けるとさらに有効です。ストレスを感じた時に、「認知」「気分・感情」「行動」「身体反応」を記録しておくのです。
ストレスを感じた時に、自分がどんな状況にあるか観察して記録してみましょう。
例えば、次のように書いていきます。
「これによって、自分のパターンだけでなく、認知の偏りもわかることがあります。例えば『部屋が散らかっているから自分はダメな母親だ』をストレスに感じている人がいるとすると、『部屋が散らかっている』というストレッサーと『自分はダメな母親だ』という認知を分けて考えることができるようになるのです」
セルフモニタリングができたら、ストレスを感じた時に対処できるよう、対処法を用意しましょう。
この時、あらかじめ自分に向いた対処法のリスト「コーピングレパートリー」を作っておくのがおすすめです。「コーピングレパートリー」は、ストレスを感じた時に効果がありそうなことを、とにかくたくさん書き出しておくのがコツ。
「構え過ぎず、『アイデアマン』になったつもりで、できるだけ具体的にリストにします。ストレスコーピングの分野で第一人者である伊藤絵美先生は、『まず100個書き出してみましょう』とおっしゃっています」
例えば、「チョコレートを一口食べる」「入浴剤を入れて湯船につかる」「寝る前にストレッチをする」など、ちょっとしたことをたくさん書き出します。
このような「情動焦点型」だけでもかまいませんが、「問題解決型」も少し意識するといいそう。例えば、「書籍などから必要な情報を集める」「いい面と悪い面をリストアップする」など、いろいろなバリエーションを考えてみましょう。
コーピングレパートリーを作ったら、ストレスを感じた時に実践してみます。そのリストから試してみて、その結果を「コーピング日記」として記録するとより効果的です。次のような項目で書くといいそう。
コーピングレパートリーとコーピング日記で、ストレス対処がしやすくなります。
コーピングを試してみながら、コーピングレパートリーをアップデートしていくと、さらに効果的なリストができ上がります。また、日記をつけることで、考え方が柔軟になったり、ストレスへの対応力が付いてきます。
コーピングの考え方を知り、レパートリーを上手に使って、ストレスに上手に対処していきたいですね。
取材・記事 栃尾江美