さまざまなスポーツの世界で活躍するアスリートに、健康にまつわる習慣と競技の魅力を聞く連載「教えて!アスリートの健康習慣」。
今回ピックアップするのは「アメリカンフットボール」(以下アメフト)。全米NO.1プロスポーツともいわれ、日本でも社会人チームの最高峰を競うXリーグが開催されています。その舞台で戦うエレコム神戸ファイニーズで活躍し、日本代表にも選出されている白神有貴選手にお話を聞きます。
■アメリカンフットボールとは?
ラグビーのような楕円球を使った陣取り合戦が基本ですが、攻守が明確に分かれています。攻撃側11人、守備側11人で、4回の攻撃権の中で10ヤード(約9m)進めばさらに4回の攻撃権を得られ、進めないと攻守が変わります。攻撃側はパスやランプレーを駆使し、それに対して守備側もさまざまな戦術で向かいあう、技術、体力に加え複雑な作戦も魅力です。
プロフィール
- 白神有貴(しらかみ ゆうき)
- エレコム神戸ファイニーズ所属。ポジションはランニングバック。30歳。日本代表にも選出されるトップアスリートであり、同時に大手企業の会社員でもあります。
大男の間を突き抜ける「ランニングバック」
練習を拝見しました。激しいぶつかりあい、スピーディーな展開はもちろん、1プレイ1プレイ止めながら作戦を選択し、確認する。動と静、体力と知性、そしてシンプルさと複雑さの両立がアメフトの魅力だと感じます。
ありがとうございます。とはいえ、ルールや作戦が複雑で、初めて見る方にはわかりづらいかもしれません。
確かにそういう面はありますね。ただその中でも、白神選手のポジションはとてもわかりやすいと思いました。
はい、ランニングバック(RB)といいます。見ていただきたいのはボールを持って独走するところです。だいたい、向かいあうディフェンスラインの選手は大きくて、力も強い。それをかわしたり、すり抜けたりして独走する姿は見ていてスカッとすると思います。僕もスカッとします。(笑)
ディフェンスラインを破って独走状態に入った白神選手。その瞬間見える風景はどんなものなのだろうか。
無人のフィールドを駆け抜けてタッチダウン。最高の場面ですね。一方でRBはそのディフェンスの壁に自ら突進して、何度も何度も、少しずつでも相手陣地に進むというポジションでもあります。
タックルされても捕まっても、もがいて、もがいて、少しでも前に進む。それもRBの仕事です。
爽快感もあるけれど泥臭いポジション。その上相対するのは筋骨隆々の大男たち。そこに向かっていくというのは…。
めちゃくちゃ怖いですよ。特に首はかんたんにいっちゃう(折れる、壊れる)。ケガ対策として首や肩の周りの僧帽筋はしっかり鍛えています。
172㎝という小柄なサイズだからこそ、強力な守備網をかいくぐることができる。でもリスクは大きい。だから瞬発力を磨き、負けないカラダに。
鍛えすぎて日常生活で困ったふたつのこと
駆け抜けるスピードやすり抜ける敏捷性、そしてぶつかりあうための筋力。RBはいろいろな能力が求められますが、どのようなトレーニングをしているのですか?
まずはスピード、瞬発力を重視しています。重いものを挙げることも大切ですが、それをいかに繰り返し早くできるかを考えて取り組んでいます。30歳という年齢では筋力は急激には落ちないですし、ガンガンやれば戻ります。一方でスピードは容易に落ちてしまいやっかいです。走る時も長距離ではなくて、20mを10本、40mか50mを10本というように、ここでもスピードを重視しています。
白神さんは会社員としてもはたらいています。忙しい中でトレーニング時間を確保するのは難しいのでは?
最近仕事が忙しくて、だいたい22時頃からトレーニング。ジムに行く日は、帰宅は終電ですね。
いえ、仕事との両立は大変とは思わないんですが、それだけ鍛えているので、スーツのパンツであうものがないということのほうが辛いです。股ズレもひどくて。(笑)
ちょっと自慢なんですけど、結構すごいと思いますよ、僕のおしりと太もも。
撮影中にチームメイトからも「すげー!!」という声を浴びる「美脚」。これぞ白神さんが鍛え抜いた証。
RBは、おしりが大事です。(笑)
それから首と僧帽筋の話をしましたが、これも発達しすぎて弊害が…携帯電話や子機を首に挟むことができないんですよ。隙間ができてずりおちちゃう。仕事上とても不便です。(笑)
僧帽筋は普段は邪魔なんですね!確かに日常で筋骨隆々の大男に突っ込んでいくなんて場面はありませんね。
「冷温交替プログラム」で疲労回復
トップアスリートとして鍛えること、会社員としてしっかりはたらくこと。その両立は大変かと思うのですが、そのために心がけている健康習慣はありますか?
私服姿。「デニムスタイルはいいんですけど、スーツのパンツはきついんですよ」と笑顔。
まず食事です。これは本当に大切だと思っています。昼夜、社員食堂で食べられるんですが、バランス良く食べられる環境があるのはありがたいです。緑黄色野菜をたっぷりとっています。それからタンパク質をとる目的で卵は欠かせないですね。タンパク質的には半熟の状態がいいとされているので、できるだけその状態で食べています。
食の楽しみを我慢して、栄養を軸にメニューを考え、食べるということでもあるのでしょうか。
確かに栄養やバランスを優先するということではありますが、それよりも年を重ねてきたからでしょうか、カラダにいいものがおいしいと感じるんです。
それから筋肉疲労の回復のために、温冷浴を取り入れています。結構好きなんです。水風呂に浸かってから温水に入るというのを交互にするというものです。ただ、冷たいのがあまり得意ではないので水風呂は下半身だけ。(笑)
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それでも効果的なんですね。激しいプレイと仕事を支えるしっかりした健康習慣には環境を整えることも大切だと感じました。最後にお口に関する習慣についても教えてください。
朝、きちんと、気持ちよく出社することが大事だと思っているので、目覚めてからすぐにマウスウォッシュでスッキリして、朝食をちゃんと食べて、歯みがきして家を出る。これがいい習慣だと思って続けています。
取材後記爽やかな笑顔の白神さん。「すぐに首がいっちゃいますから」という発言も爽やかな笑顔で何気なくいうので、一瞬聞き逃しそうになってしまいましたが、かなり危ない話。172㎝という身長は大男達の中に入るともちろん低く見えますが、防具を着けていても鍛え抜かれたカラダだとわかり、その筋肉の塊に遜色はありません。ケガを防ぐために、そしてより速く、強く相手陣を駆け抜けるために鍛える。それを会社勤めとしっかり両立しているのもまたすごいこと。頭と気持ちの切り替えが、朝一番のマウスウォッシュや温冷浴なのかもしれません。私たちの日常でここまで極端な「二刀流」はないかもしれませんが、ちょっとした習慣で気持ちは切り替えられる。そんなヒントをいただけたと感じました。