咀嚼とは、よく噛んで噛み砕くことです。主に下顎と歯、舌を使って、食べ物をしっかり噛みくだき、唾液と充分に混ぜ合わせることで、飲み込みやすい食物の塊(食塊)を形成します。乳幼児・児童にとって咀嚼は、将来の食生活をはじめとしたライフスタイルに、また高齢者にとっては、自立心や社会生活、生活の質(QOL)に影響すると考えられ、最近では特に重要視されてきています。
噛むことの意義
誰でも小さい頃に、「よく噛んで食べなさい」と注意された経験があるのではないでしょうか。「よく噛むこと」は子育て、しつけの基本的項目になっていました。よく噛むことが身体によいことを経験的に知っていたからでしょう。現在では、噛むことによってさまざまな効用がもたらされることがわかってきました。
噛むことの効用
「よく噛むと頭がよくなる」といわれますが、食べ物をよく咀嚼することは、脳を刺激し活性化するといわれています。高齢者では、きちんと咀嚼できないと、学習、記憶、自立度、認知、全身的な運動の持久力などの低下が見られるという報告もあります。
摂食・嚥下とは、水分や食べ物を、お口に取り込むところから、ごっくんと飲み込んで胃へ送り込むまでの一連の運動のことを指します。
摂食・嚥下の流れ
1.食べ物を認知する
食欲を感じ、お口が嚥下運動に入る準備の段階です。
2.食べ物をお口へ取り込む
3.咀嚼・食塊形成
食べ物を細かく砕き、唾液と混合して飲み込みやすい形状に整えます。味や食感を楽しむ重要な過程でもあります。
4.食塊を咽頭へ送り込む
舌を口蓋(上あご)に押しつけて食塊を咽頭に送り込む過程です。ここでは、舌を円滑に動かすことができるかどうかがカギになります。
5.食塊を咽頭から食道へ送り込む
咽頭は食べ物の通路であるとともに、空気の通路(呼吸と発声)でもあります。普段は呼吸のために使われているのです。
そのため、嚥下の時には瞬時に気道を閉じるとともに、食道の入り口を開いて食塊が食道に流れるようにしています。この時、気道がうまく閉鎖されないと、水分などが気道に入ることになります。健康な状態であれば、“むせ”、“せき”などの反射が起こって気道への侵入を防ぐことができます。ところが高齢者など、気道と食道の切り替えがうまくいかない方の場合、食べ物が気道へとそのまま侵入してしまい、誤嚥へとつながる場合があります。
咀嚼・嚥下の重要性
咀嚼と嚥下はどちらか一方でもできなくなると、お口から食べ物を摂取することができなくなってしまいます。
咀嚼や嚥下に障害があると、お口から栄養を摂取できなくなって低栄養(栄養失調)を引き起こすだけでなく、食べ物を食べる楽しみをも失ってしまいます。さらに、誤嚥による窒息や脱水、または肺炎といった全身疾患になるケースもあります。咀嚼と嚥下は人間が食物から栄養を摂取し、生命活動を維持して人間らしく生きていくために大変重要な動作なのです。