コラム
2021/03/17

《教えて!アスリートの健康習慣》第3回 サイクルロードレース編 増田成幸選手

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さまざまなスポーツの世界で活躍するアスリートに、健康習慣と競技の魅力を聞く連載「教えて!アスリートの健康習慣」。

今回登場いただく増田選手は「サイクルロードレース(自転車競技)」でオリンピック代表に選出されるなど、日本の第一人者として活躍しています。最高峰レースのひとつである「ツール・ド・フランス」は、サッカーワールドカップ、オリンピックと並ぶ世界三大スポーツイベントといわれるほど世界的な人気を誇ります。絶景や世界遺産の街が舞台となることもあり、美しい風景の中を走ることも魅力ですが、一方で過酷な競技でもあります。この競技に挑むために、そしてこれを支える健やかな毎日のための健康習慣をお伺いしました。

■サイクルロードレースとは?
屋内ではなく主に舗装された道路を自転車で走り、ゴールの順番や時間を競いあう競技。距離は短いものから300㎞を走破するものまでさまざま。また、1日で決着がつく大会から、何日も、時には何週間もかけて個人の総合優勝やチームでの成績を争う大会、さらに都市部の周回レースから山岳の厳しいアップダウンがあるステージまで多彩な形で行われます。

プロフィール

 
増田成幸(ますだ なりゆき)
サイクルロードレーサー。宇都宮ブリッツェン所属・主将。東京五輪自転車競技(男子個人ロードレース)代表。

個人×チームスポーツという魅力

まず、増田選手が考えるサイクルロードレースの魅力を教えてください。
右
陸上のマラソンのような長距離で争う面と、チーム競技でもあるという面です。大会では5人から8人ほどでチームを組んで、1人の選手を勝たせるために戦います。風よけや補給係を引き受けるなどの自己犠牲に支えられて初めて勝てるんです。
1週間から3週間あるような長い期間にわたって行うレースでは、大会をとおしての総合優勝を目指す選手と、この日は平坦な道、この日は山岳など、スピード自慢の選手や山登りのスペシャリストなど多彩なキャラクターを持つ選手が活躍できる日もありますね。
右
そうなんです。いろいろなタイプ、個性の選手がチームを組んで、適材適所で活躍します。ある日はアシストに回り、翌日は勝利を目指したりもします。レース展開を知ってもらえればより楽しんでいただけると思います。


増田選手はエースを担うことも多いオールラウンダー。スタミナ、スピードに加え冷静な判断力と勝負に転じた時の度胸などさまざまな要素を日々みがいています。

1000mを超える山を登ったり、1日で200㎞を超える長距離を走るといったスタミナも尋常ではありませんが、ゴール前に集団がトップスピードで飛び込んでいったり、ワインディングしながら山下りをしていくスピード感といったスリルも魅力だと感じます。
右
山下りだと時速100㎞を超えることもありますからね。
おお!危険すぎる…。
右
やっている本人はアドレナリンも出ていますし、集中しているのでその時は怖くないんですが、考えてみたら相当危ないですね。(笑)
落車によるケガのリスクもありますし、実際、増田選手も大ケガをされたことがあります。肉体的にも精神的にも過酷ですね。だからこそチームでの助けあいもある。美しい景色の中での競技ですが、すさまじい戦いが繰り広げられているんですね。

練習後は積極的な休養を意識

競技に関する練習はかなり厳しいものだと思いますが、それを支える普段の健康習慣についてお聞かせください。
右
まず、休養を積極的に取ります。休みも全力でという意識はありますね。トレーニング後は回復するという気持ちにスイッチを入れ替えます。例えばお風呂。トレーニングで交感神経が高ぶっていますからお風呂でゆっくりすることで自律神経のバランスを整えます。防水スピーカーを持ち込んだり照明を落とすこともあります。目を閉じてお風呂に浸かるだけでも随分落ち着けるんです。
睡眠も意識していらっしゃいますか?
右
はい。子供が夜9時に寝つくので、そのあと寝室に入ってストレッチでカラダをほぐして10時前には寝てしまいます。お風呂にもゆっくり入っているので寝つきもいいんですよ。
食習慣はいかがですか?
右
まず重要なのはタンパク質です。トレーニングで壊れた筋繊維を修復するためには必要不可欠なんです。でもそれだけではダメなので、野菜もバランスよく食べますし、炭水化物もしっかりと補給しないとエネルギーが足りません。そこでごはんもしっかり食べます。ちなみにトレーニングでも大会でも、200㎞を走るような時は途中で補給食が必要です。
大会中でも走りながら食べる様子がよく見られますが、それだけエネルギーを消費する競技なんですね。


トレーニング中の補給食はバナナやおにぎりなど糖質がすぐにエネルギーになるもので。レース中は胃腸に負担がかからないゲル状の食品も取ります。2020年撮影。

お口の健康を保つための工夫

右
レース中の補給食に関連して、実はサイクルロードレースならではのお口の「あるある」があるんです。むし歯がある選手が多いんですよ。
そうなんですか!?それはどういう理由で?
右
おそらく、トレーニングや競技では呼吸のために口をゼーハーと開けたままで、唾液も出にくいので乾燥しています。そこに酸度の高いスポーツドリンクを飲むので、お口の中がむし歯になりやすい酸性になっているんでしょうね。
そんな「あるある」が!
右
レースが終わった後はすぐに歯みがきしたくなります。常にハブラシとフロスを持ち歩いており、移動中のサービスエリアで歯みがきすることもあります。私自身はホワイトニングにも関心があって、コーヒーやたまにワインを飲む時などは必ず水とセットで飲みます。自転車にもスポーツドリンクと水の両方をセットできるので、交互に飲んだりもしています。
そこまで気にされているとは。
右
実は以前、スペインでの大会に出発するという日に歯が欠けちゃったんです。しかもマシュマロを食べている時に。(笑)
ありえないような話ですね!
右
ですよね。その影響で遠征中にモノがよく噛めないというのがストレスになってしまって。それからさらにお口の健康に気を使うようになりました。
食事からエネルギーをしっかり取らないといけない競技だけに、お口の健康は重要ですよね。最後に、今後の活動についてお聞かせください。
右
トップコンディションの時に東京オリンピックを迎えることができれば、選手人生の集大成にもなります。走ることができるならば、日本を背負って走るという誇りをもって全力でやりたいと思います。そのためにもやはり休養にも全力で取り組みます。


宇都宮ブリッツェンのチームメイトと支えあいながら更なる高みを目指します。

取材後記サイクルロードレースは、個人の能力とチームの戦術が相まった競技。華奢に見える選手にはそれだからこその能力があり、パワー自慢ならそれを生かせる場面がある。素晴らしい能力を持ちながら、誰かを勝たせるためにサポートに回る場面もある。増田選手は、チーム一丸となって勝たせるという立場の選手。むしろそのプレッシャーはものすごいものではないかと想像します。自分のために犠牲になる選手の思いに応えるために、ハードな練習だけではなく「全力の休息」も大切なチームメイトへのメッセージなのでしょう。

取材・記事 岩瀬大二
写真提供 宇都宮ブリッツェン

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