コラム
2021/04/01

《教えて!アスリートの健康習慣》第4回 クリケット編 木村昇吾選手

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さまざまなスポーツの世界で活躍するアスリートに、健康習慣と競技の魅力を聞く連載「教えて!アスリートの健康習慣」。

今回はクリケット。日本ではなじみが薄い競技ですが、世界的には大人気。競技人口ではサッカーに次ぐ第2位ともいわれています。特に母国イングランド、インドや豪州、南アフリカなどでは、試合となれば10万人の観客を集め、トップ選手の年棒は10億円を超えるなど国民的なスポーツとなっています。

今回登場いただく木村昇吾選手は元プロ野球選手。広島東洋カープなどで活躍した後、クリケットへ転向。日本代表でもあり、国内唯一のプロプレイヤーで、海外のビッグクラブ入りを視野に活動しています。プロ野球選手というトップアスリートの木村さんからしても、クリケットは相当過酷な競技だといいます。では、クリケットの魅力と木村さんを支える健康習慣を伺っていきましょう。

■クリケットとは?
野球の源流ともいわれ、投手が投げた球を打者が打つ、守備の選手が捕球し、走者をアウトにするというような基本的な共通点はありますが、「グラウンドが360度」「ホームベースではなくウィケットと呼ばれる杭に向かって助走をつけて投げる」「攻守それぞれ1イニングで行う(10回のアウトで交代)」「得点の加算方法・防具を使用・人数(11人対11人)」など大きく違う点があります。また試合時間や形式は、3時間程度で行われるものから伝統的な国別対抗戦では5日間にわたって行われるものまであります。

プロフィール

 
木村昇吾(きむら しょうご)
プロ・クリケット・プレイヤー。大阪府出身。高校野球の名門・尽誠学園から愛知学院大学を経て、2002年横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)入団。08年に広島東洋カープに移籍し16年に埼玉西武ライオンズへ。2017年からクリケット選手に転向。ワイヴァーンズクリケットクラブ所属。日本代表。40歳。

野球と違うクリケットの難しさと面白さ


練習中の木村さん。打者の木村さんと捕手の間にあるのがウィケット。

クリケットというと正装した方々が優雅に投げて、打って、走るというイメージです。元プロ野球選手の木村さんからすると、肉体的にはそんなに大変ではないように思いますが…。
右
いやいや、実際は全然違って、かなり厳しいスポーツです。長時間にわたっての試合で、その間に必要な体力、技術、集中力は相当なものです。走る時も野球と違い、ヘルメットやプロテクターをつけたまま、そして重いバットを持って走るんです。アウトになるまでは打って、走ってとプレーが続きますから、相当きついです。
(道具一式を持たせていただく)こ、これは見た目以上に重いですね。
右
でしょう?野球選手時代は内野手でしたので、キャッチャーのように用具をつけてプレーはしていませんでしたし、キャッチャーだったとしても用具をつけてバットを持ったまま走るなんてことはありませんから。(笑)また、ヘルメットをかぶっていると視野も狭くて圧迫感がすごいんです。野球と似た競技ではありますが、カラダの使い方などはまったく違うし、考え方も変えなければいけないことも多くて大変でした。


野球との違いの一例はバッティング。クリケットは1バウンドで変化する投球を打つため、視点も、使う筋肉も変わる。ボールの軌道がバウンドによって逆方向へ行ったり、加速、減速したりというのは野球にはないこと。違いに対応することは一筋縄ではいかないが、それでもプロ野球選手としての身体能力は大きな支えとなった。

ボールのサイズは野球と変わらないようですが、重くて硬いですね。コンタクトスポーツではないですが、防具が必要なわけですね。
右
ボールがカラダに向かってくることもありますが、「キッス・ザ・ボール」といって、最後までボールをしっかり見て打てといわれます。
危険な香りしかしませんね。(笑)
右
僕も何度かケガをしています。そうそう、野手の捕球は素手なんです。
ええっ!どこか優雅なスポーツだと思っていたのですが、勇気と体力が必要なスポーツなんですね。

プロ野球時代から続けるふたつの健康習慣

プロ野球選手時代、そしてクリケットプレイヤーとして、活躍を支えている普段の健康習慣についてお聞かせください。
右
まず、走ることです。カープ時代のコーチに「走れなくなったら終わりだ」といわれてから意識しています。プロ野球時代とはメニューは変わって、今はクリケットに必要な20mダッシュのシャトルランが主になりますが、本数ではなくいかに本気で、昨日を超えるかを考えています。今日は昨日の90%でいいやと思うとどんどん衰えていってしまう。
走ることは体力強化ということだけではなくて、メンタル面で自分を支えてくれるものでもあるわけですね。
右
そうですね。それから食習慣では「酢飯」です。ごはんに酢をかけて食べています。
酢飯ですか!?
右
はい。太れない体質な上に夏場は特に食が細い。それでもカラダは動かしているのでエネルギーが足りなくなる。プロ野球時代にも悩みました。そこで「酢飯」です。子どもの頃から好きで、これなら食べられるんですよ。
子どもの頃から、そしてトップアスリートになっても支えてくれた食なんですね。
右
まあ、すごく力がわくというものではないんですが、疲れて酸化した身体をアルカリ性のお酢で弱アルカリ性に保つということで、良い食習慣だと思っています。
変わらない習慣を持つのも大切ですね。
右
メシ、寝る、そのすべてがプロとして結果を出すためのものなんです。これまではプロ球団にいて、24時間365日、野球のことだけを考えられる環境がありました。でも今は、練習環境を整えることを含め、自分でやっていかなければいけなくなった。ぐうたらしたい性格なので(笑)、自分を律しています。

家族みんなで歯を大切に

お口の健康習慣についてもお聞きします。打撃の瞬間に歯を食いしばり、また長時間、野外で競技をすることでのお口の乾燥など、かなり負担がかかっているのではないかと思います。普段のケアはどのようにされていますか?
右
実は私の父は、歯科関連の用品を扱う会社ではたらいていました。それもあって歯を大事にしろとずーっといわれていました。
そうなんですか!?では子どもの頃から関心を持っていらっしゃったんですね。
右
はい。ちょっと余談なのですが、父はその仕事の関係でサンフランシスコなどの海外に良く行っていて、かっこいいな、と思っていました。だからいいつけを守れていたのかもしれません。(笑)
そして木村さんも今は海外で挑戦されています。お父さんへの憧れ、今は、ご自身が体現されているようです。
右
確かに!小学校の頃を振り返ると1年生でもう「8020運動(満80歳で20本以上の歯を残そうという運動)」も意識していましたし、6年間むし歯なしで表彰されました。しまいには歯科検診の時、先生から「木村は診んでもええわ。どうせむし歯ないやろ」なんていわれるぐらいでした。(笑)
歯科医師のお墨付き!
右
もちろん今でも気をつけています。私のスポンサーになってくださっているデンタルクリニックさんがあって、家族みんなで定期的にチェックしています。海外で活動する際には、その前に必ずチェックするようにしています。
木村さんがかっこいいお父さんの姿を見て歯を大事にしてきたように、お子さんやファンの方が木村さんを見てお口の健康や歯を大切にしていくようになると良いですね。最後に、クリケットのアンバサダーとして、ここを見てほしい!というメッセージをお願いします。
右
クリケットはルールが難しいと感じられる方も多いと思います。そこで私がルールやクリケットの魅力を楽しく紹介するYouTubeチャンネルを開設しました。また、埼玉、大阪などで定期的に体験会を開催しています。参加者の方からは「思っていたよりも楽しい!」という声をいただいています。ぜひとも、一度体験いただきたいと思っています。
 
強豪国スリランカ代表のスーパースター、ラシス・マリンガ選手と。海外のトップ選手と肩を並べるための武器は、プロ野球選手としてのキャリアと健康習慣にありました。
取材後記15年ほど前、オーストラリアの旅行中に見た現地の大手新聞の1面全部がクリケットでした。前日行われたインド戦でオーストラリアが歴史的な勝利を収めたというニュースでした。代表クラスのトッププレイヤーの富と名誉と、その引き換えの重圧は日本でいえばプロ野球に近いと思います。元プロ野球選手として「まだ僕の中では育ててくれた“野球さん“がいて、それを活かして“クリケットさん”とつきあっている」という木村さんが語る野球との共通点や違い。実はこの話だけで取材予定時間を大幅に超えるほど盛り上がりました。野球が好きな方ならなおさらクリケットにもハマることでしょう。今後、木村さんの活躍を通して日本でもクリケットが広がることを期待します。

取材・記事 岩瀬大二
撮影 石原敦志
写真提供(練習中、海外選手とのツーショット) (株)インプレッション

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