令和1年度の国民健康・栄養調査によると、日本には「糖尿病が強く疑われる人」と「糖尿病の可能性を否定できない人」が27.3%おり約4人に1人といわれています!
病名を聞く機会は多い糖尿病ですが、詳しいことは知らないという人も多いのではないでしょうか。
糖尿病はブドウ糖を利用するために必要なインスリンが不足したり、インスリンの作用不足によって血糖値が高くなる疾患です。インスリンとは、すい臓のβ細胞で作られる、血糖値を下げる働きを持つホルモンのこと。血中のブドウ糖をエネルギーにしたり、グリコーゲンや脂肪に変換して組織に蓄える作用をしています。
糖尿病にはいろいろな種類がありますが、代表的なものが1型糖尿病と2型糖尿病です。
インスリン依存型といわれる1型糖尿病は、主に小児から青年期に発症します。自己免疫によって、インスリンを作るすい臓のβ細胞が破壊され、インスリン量が絶対的に不足することで起こります。現在のところはっきりした原因はわかっていませんが、遺伝子と環境要因によって発症すると考えられています。
一方、2型糖尿病は主に中高年に多く見られる糖尿病で、日本の糖尿病患者全体のおよそ95%を占めます。遺伝的にインスリンの量が少ないことや、生活習慣に関連してインスリンが働きにくくなることが要因です。日本人はもともとインスリン分泌能が低いのですが、それに加えて高脂肪な食事や運動不足などの生活習慣が関係している場合が多いと言われています。
そのほか、妊娠、免疫異常、薬剤や化学物質などが原因で発症する糖尿病もあります。
糖尿病は、生涯にわたって血糖コントロールをしながら付き合っていく病気です。血糖コントロールがうまくいかず、血糖値が高い状態(高血糖)が続くと、さまざまな合併症をもたらし、その合併症が生活の質を大きく低下させてしまいます。
主な合併症には、血流の障害による手足の壊死、神経障害、網膜症による視力低下や失明、腎臓の機能が損なわれる腎症、動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞などがあります。加えて近年では、歯周病も合併症の1つととらえられるようになり、2013年に糖尿病学会が編集した「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」においても、慢性合併症の1つとして取り上げられています。
糖尿病になると、一般の人と比べて2.6倍も歯周病にかかりやすくなるという研究データも(※)。それは、糖尿病によって①口腔内および歯周ポケット内の環境変化、②易感染性、③高血糖下における炎症増幅などがあるためです。
①口腔内および歯周ポケット内の環境変化
健康な人に比べて、糖尿病患者では唾液の分泌量が低下します。さらに、唾液中のグルコース濃度が上昇しています。こうした条件が、プラーク(歯垢)の付着や歯周病菌・むし歯菌などの増殖に寄与すると考えられています。
②易感染性
糖尿病になると、複数のメカニズムから感染を防ぐ機能が低下することが知られています。さらに、感染によりダメージを受けた組織の修復を遅れさせる状態も生じるため、より歯周病になりやすい状態となります。
③高血糖下における炎症増幅
高血糖状態が続くことにより、糖尿病患者のお口の中ではAGEs(最終糖化産物)の濃度が高くなります。AGEsは、歯周炎の発症や歯周病の悪化に関係しているといわれています。
一方で、歯周病が糖尿病の悪化につながるとも考えられています。歯周病になると、歯ぐきの中で作り出される炎症物質が血液を介してインスリンの効きを悪くするので、糖尿病に悪影響を及ぼす可能性があるためです。
また歯周病が進行すると、歯を失うリスクが増えます。歯を失うと柔らかい食べ物ばかりを好むようになり、栄養バランスが悪化。血糖値にも悪影響を及ぼしてしまうのです。
このように、糖尿病と歯周病には深い関係性があります。ですから糖尿病患者は、歯周病の予防や治療に積極的に取り組むことが大切です。
後編では、糖尿病患者の歯周病治療についてご紹介します。
※ Diabetes Care. 13 : 836-840. 1990