「糖尿病」と聞いても、20代や30代の女性にとっては縁遠い話に聞こえるかもしれません。暴飲暴食もしないし、お酒も飲まない。ダイエットを心がけているし、それにメタボって中高年男性の話でしょ?
いえいえ、実はその世代の最近の食習慣に、糖尿病にまっしぐら!の危険性があるのです。健康でありたい、ダイエットしたいという気持ちから、無理な食生活をしていませんか?私は大丈夫、という意識のせいで、糖尿病になりやすい習慣や体質になっていることに気づかず、「隠れ糖尿病」のリスクが進んでしまっているかもしれません。
今回、管理栄養士の柏原ゆきよさんにお話を伺い、身近なランチタイムを例に糖尿病のリスクを考えてみましょう。
取材先プロフィール
メニューの選択が「隠れ糖尿病」になる分かれ道。あなたが普段よく食べているものはなんでしょうか?
糖尿病を予防するために重要なのは、リスクを高める大きな要因である「血糖値の上昇」をいかに抑えるかです。柏原さんは「早食いをすると血糖値が上昇しやすいんです。そして早食いの要因には、あまり噛まずに食べられる柔らかい食べ物があります」と指摘します。
血糖値が一気に上昇すると、血液中の糖を処理するために多量のインスリンが分泌され、分泌が追いつかなくなるということが起こります。それが糖尿病を誘引するのです。
高カロリー、高糖質な食事、肥満こそ糖尿病のもとというイメージがあります。でも、痩せているし、まだ若いし、少食だから無縁だというのは間違い。そうではなく「早食い」「噛まない」という食習慣が糖尿病に繋がるのです。
「食パンもふわふわ食べやすい。麺も噛まずに飲み込んでいる。それからスムージーだけで一食というように、ますます噛まない食事が増えていますが、これが糖尿病のリスクを高めています」。(柏原さん)
そこで、ランチタイムのちょっとした工夫をお伝えしましょう。この3ヵ条を守ることで、糖尿病になりにくい、血糖値の上昇を抑える食習慣が身につきます。
1.よく噛む
2.ゆっくり食べる
3.でも、気持ちも暮らしも無理をしない
では、この3ヵ条を取り入れるために選ぶと良いメニューは?それは「定食」。ごはんにおかずに味噌汁。その3点があることが重要です。
なぜなら、ごはんとおかずは別に盛られていると、自然とゆっくり食べることになるから。逆にカレーライスや丼ものなど、最初から同じ器にごはんとおかずが盛られ、さらにごはんに味が染みているものは、自然に食べる速さが上がってしまいます。
「丼ものだと5分ぐらいで食べ終わってしまいますよね。でも、できればランチは20分以上かけて食べていただきたい。ですから、選ぶなら丼ではなく定食がいいんです」(柏原さん)
食べ方についても、1品ずつ食べ終えていく「ばかり食べ」ではなく、みそ汁、ごはん、おかずを交互に順番に食べていく「三角食べ」を心がけましょう。
「この三角食べによって得られるメリットは、血糖値の上昇を抑えるという面だけではありません。咀嚼によって唾液と食べたものがしっかり混ざると、胃腸に負担がかからず、また体内に栄養素を吸収しやすくなるんですよ」。(柏原さん)
日本の食には「口内調味」といって、口の中で味が完成するという食べ方があります。ごはんと少量のおかずでも、ゆっくり食べると断然おいしくなります。何かを我慢して糖尿病を予防するのではなく、よりおいしく食べられるこんな方法なら、きっと続けられるでしょう。
定食であればおかずはある程度好きなもので大丈夫。よく咀嚼することを意識すればいいだけなので、メニュー選びにも変化がつきます。油を使っているからと避けがちなトンカツだって、咀嚼の観点からは良いメニュー。脂モノが食べられるということは元気な証拠。無理に我慢しなくても大丈夫です。
実はストレスをためることと血糖値の上昇にも相関関係があります。よく噛み、ゆっくり食べ、そして無理なく楽しむ。これを心がけて糖尿病の予防をしていきましょう。
柏原さんの著書は、食生活で無理なく楽しくできる、糖尿病や生活習慣病対策のアイデアがいっぱい。
取材・記事 岩瀬大二
撮影 石原敦志