冷たい物を飲むと歯がしみる、ハブラシを当てると鋭い痛みが走る…。ミドル世代でそんな経験のある方も少なくないでしょう。今回はミドル世代の知覚過敏に見られる傾向や、気を付けるべき点について専門家にお聞きしました。
監修者プロフィール
40~50代はお口のトラブルが起きやすくなる分岐点に位置する年代。そんなミドル世代のお口の悩みでよくあるのが知覚過敏です。
「厚生労働省が発表した『平成28年歯科疾患実態調査』によると、ミドル世代のお口の悩み1位が『歯が痛い、しみる』という結果でした」
むし歯でもないのに歯が痛んだりしみたりするといった症状は、知覚過敏の場合、歯の表面のエナメル質や歯根を覆うセメント質を失うことで内側の象牙質が露出し、神経が刺激されることで起こります。しかし、そこまでに至るプロセスはさまざま。例えば、間違ったケアや治療がきっかけになることもあります。
そこで、ミドル世代が知覚過敏に陥る代表的なふたつのパターンをご紹介します。
ミドル世代の知覚過敏で多い原因が歯ぎしりや食いしばりすぎです。歯ぎしりや食いしばりにより、歯の表面が削れたりひびが入ることで歯の神経(歯髄)に刺激を通しやすくなり、知覚過敏の症状を発症することがあります。
「私のクリニックで多いのも歯ぎしりや食いしばりすぎによる知覚過敏です。仕事や家事で忙しいストレスフルな生活を送っている世代に多い印象があります」
「現代人の歯の寿命は延びています。ミドル世代が知覚過敏や歯周病トラブルに悩まされるようになったのは、オーラルケアの意識が進んで昔だったら残っていなかった歯がお口に残っているからともいえます」と川田先生。
特に、フェイスラインが張っていたり、頬の裏に線が入っていたり、舌の脇にギザギザと跡があるような方の場合は歯を食いしばる傾向があるかもしれません。歯ぎしりや食いしばりが知覚過敏の原因だと自分で気づくのは難しく、歯科医師による診断を受けて初めてわかることも多いといいます。歯ぎしりや食いしばりを軽減するために、治療用マウスピースを用いることもあるそうです。
ふたつ目に多い原因は酸性食品の摂りすぎです。普段、お口の中は唾液の作用で適切なpH値に保たれていますが、食品を食べるとお口は酸性に傾きます。適度であれば問題ありませんが、酸性の状態が長時間続いたり高頻度で起こると、歯の表面が溶け出し刺激を受けやすくなります。歯の表面のエナメル質はpH5.5、エナメル層の下の層にある象牙質はpH6.0、歯根部を覆うセメント質はpH6.2以下になると溶けはじめるので気を付けましょう。
「特に、ミドル世代は自身の健康に気を使っている方が多く黒酢や野菜ジュースを毎日飲むという方もお見かけします。しかし、健康によいとされる飲み物であっても酸性食品の取り過ぎは知覚過敏のリスクを高めることになりかねませんので注意してください」
炭酸ジュース、スポーツ飲料などに加え、レモンサワーやワイン、ビールなどのお酒も酸性食品です。
酸性の飲み物を飲んだ後はそのまま寝ないよう要注意。
「仕事終わりの一杯が楽しみという方もいるでしょうが、飲酒後そのまま布団で寝るのは、酸性に傾いたお口の状態が長時間続くということ。さらに、むし歯菌や歯周病菌が繁殖しやすい状態のままになります。しっかりとケアをしてから床につくようにしましょう」
ここからは知覚過敏の症状に対する対処法やセルフケアを紹介します。むし歯でもないのに歯がしみて痛む場合、上記の生活習慣に加え、まず自分が正しく歯をみがけているかどうかチェックすることからはじめるのがよいと川田先生は説明します。
自分が正しく歯をみがけているか確認するために、以下のチェックリストを参考にしてみてください。
【歯みがき方法のチェックリスト】
ハブラシの当て方(角度・圧・ストローク)
・ハブラシを当てる角度は適切か?
・毛先が広がらない程度の圧で優しくみがけているか?
・正しいストローク(前後に小さく動かす)でみがけているか?
歯みがきの回数
・朝昼夜の毎食後の3回行っているか?
ハブラシの選び方と状態
・毛先の硬いタイプを使っていないか?
・電動ハブラシで長時間みがいていないか?
・毛先が広がっていないか?
歯磨剤の選び方
・研磨剤が含まれる歯磨剤を使っていないか?
歯間ブラシやフロスを正しく使用しているか?
中には、歯の汚れを落としたいと思うあまりゴシゴシと力を入れてみがく方もいますが、それはかえって逆効果。力の強すぎる歯みがきは歯ぐきや歯を傷つける可能性があります。
痛みが続いたり気になる場合や、生活習慣を見直し、正しく歯をみがいても症状が治まらない場合は早めに歯科医院を受診しましょう。
「ミドル世代は健康意識が高く、オーラルケアや見た目に気を使っている方も少なくありません」と川田先生。それにも関わらず知覚過敏になるなんてもったいないと訴えます。
「自分では気づけない知覚過敏の原因もあるかもしれません。患者さんの生活習慣や食習慣に関するヒアリングは、知覚過敏の原因や治療法を検討する上で重要な情報になります」
歯がしみていては食事のおいしさも半減。ぜひこの機会に自分にあてはまる知覚過敏のリスクを確認してみましょう。自分だけでは難しいという人は、歯科医師や歯科衛生士など歯の専門家と一緒にチェックするのもおすすめです。
お口の環境の曲がり角を迎えるミドル世代。知覚過敏に悩まずに済むよう、正しいケアを実践していきましょう。
取材・記事 清水美奈