「コエンザイムQ10」の名前を聞いたことはあっても、詳しい働きを知る人は少ないかもしれません。その働きは、私たちの体を元気にしてくれるだけでなく、ドライマウスにまで及ぶというから驚きです。コエンザイムQ10の働きや具体的な効果について探ってみましょう。
日本における「還元型コエンザイムQ10」の研究・開発の先駆けである株式会社カネカから、佐藤拓民さんにお話を伺いました。
そもそもコエンザイムQ10とは、どのような物質なのでしょうか?
「コエンザイムQ10は1957年にアメリカで発見された成分(※1、2)で、当初はビタミンの1種と考えられておりました。しかし、カラダの中でも作られることがわかり、コエンザイムQ10となりました。今では、医薬品やサプリメントとして幅広く活用されています」
参考文献
※1 Crane FL et al. (1957) Biochim Biophys Acta 25:220-221
※2 日本コエンザイムQ協会編(2015) コエンザイムQ10の基礎と応用
実は、私たちの体の全ての細胞に、無数のコエンザイムQ10は存在しており、私たちの体が生きるエネルギーを作るために不可欠な働きをしてくれているのです。
コエンザイムQ10には「還元型」と「酸化型」の2種類があるそうですが、この2つはどう違うのでしょうか?
「大別すると、私たちの体内で作られ、働いてくれるのが還元型コエンザイムQ10。酸化型コエンザイムQ10は、体内で還元型に変換されて活用されます」
体内で働いてくれるのは還元型コエンザイムQ10なのですね。
「はい。もう少し詳しくいうと、還元型コエンザイムQ10は吸収されやすく(※3)、変換不要でそのまま体内で働くことができます。一方で、酸化型コエンザイムQ10が体内で働くためには、還元型に変換するというステップが必要になります」
佐藤さんによると、還元型コエンザイムQ10には代表的な2つの働きがあるそうです。
(1)生命維持・活動に必要なエネルギーを作る
生命維持・活動に必要なエネルギーの大部分は、細胞の中にあるミトコンドリアで作られます。食事から摂取した『栄養素』と呼吸で取り入れた『酸素』を利用して作られますが、このエネルギー工場(ミトコンドリア)で不可欠な成分が「還元型コエンザイムQ10」です。
(2)活性酸素による体の酸化を防ぐ
エネルギーを作り出す時にできる物質の一つに活性酸素があります。活性酸素は免疫などで働く一方で、多すぎると「酸化ストレス」を引き起こします。この「酸化ストレス」によって細胞がダメージを受けることが、老化や病気を引き起こす原因の一つになると考えられています。(※4)
還元型コエンザイムQ10は、高い抗酸化作用によって活性酸素を除去してくれるので、細胞のダメージを減らし、細胞が元気な状態を保つと考えられています。(※5)
参考文献
※3 Hernandez-Camacho JD et al, 2018 Front Physiol. 5;9:44
※4 e-ヘルスネット(厚生労働省HP)
※5 Littarru GP et al, 2007, Mol Biotechnol. Sep;37(1):31-7.
とても重要な役割を担っているのですね!知りませんでした。
「私たちの体になくてはならないコエンザイムQ10ですが、その量は20歳を境に減少していきます。特に、常に動き続けている心臓はたくさんのエネルギーを使うため、減りも著しいことが分かります(※6)。また、高齢者では、コエンザイムQ10の量が減っていて、エネルギーの生産量が減っていると報告があります(※7)。つまり、コエンザイムQ10の不足は健康を支える力を弱める可能性があります。 (※8、9、10、11)」
参考文献
※6 Kalen A et al (1989) Lipids 24(7):579-584
※7 Littarru GP et al., 2007, Mol Biotechnol Sep;37(1):31-7
※8 Morris G et al (2013)Mol Nurobiol 48(3):883-903
※9 Hargreaves I et al (2020) Int J Mol Sci 21(18):6695
※10 AL-Bazi MM et al(2011)Arch Med Sci 7(6):948-954
※11 Borekova M et al (2008) Czech J Food Sci 26: 229-241
【体内各器官でのコエンザイムQ10の減少】
年齢とともに、こんなに減ってしまうのですね!
「そうなんです。ヒトの臓器の細胞に含まれるコエンザイムQ10の量が年齢を重ねるごとに減少することが報告されているのです(※12)。健康な人の血液中のコエンザイムQ10は、95%以上が還元型コエンザイムQ10です(※13)。しかし、高齢になると酸化型コエンザイムQ10の割合が増加し、還元型コエンザイムQ10の割合は減少し、さらに臓器に含まれるコエンザイムQ10の総量も減少するという報告もあるんです(※14)」
参考文献
※12 Kalen A, et al.,Lipids. 1989;24(7):579-584.
※13 Wada et al., 2007, JAGS 55:1141,
※14 Littarru GP et al., 2007, Mol Biotechnol Sep;37(1):31-7.
還元型コエンザイムQ10には、具体的にどのような効果があるのでしょうか。
「還元型コエンザイムQ10を摂取することによって、唾液の分泌を促し、お口の潤いを維持することが報告されています(※15)」
年齢を重ねることによって唾液の出る量が減ることがわかっています。そして、薬の服用の影響や日々のストレスによる自律神経のバランスの乱れなどによっても唾液量の減少が起こることもあります(※16)。
唾液量の減少は単なるお口の乾きやパサつき・ネバつきなどの不快感だけでなく、口臭がでやすくなったり、虫歯や歯周病のリスクを高めたりなど、お口の健康に悪い影響を及ぼしてしまいます。
参考文献
※15 Ushikoshi-Nakayama R et al, PLoS ONE 14(4):e021445. 2019
※16 兵庫県歯科医師会、最近ドライマウスとよく聞きますが・・・、
https://www.hda.or.jp/faq/,(2021.02.09)
どのようなメカニズムでお口に潤いをもたらすのでしょうか?
「唾液が出るところを唾液腺と言います。その唾液腺は、他の細胞と同じく、酸化ストレスや年齢によって衰えていくことが知られています。還元型コエンザイムQ10のもつ、エネルギーを作る働きと、酸化ストレスを取り除く働きとが、唾液腺細胞を元気にして、唾液が出るのを助けてくれる、というのがメカニズムになると考えられています(※17)」
いくつかの試験により還元型コエンザイムQ10の効果が示されています。
参考文献
※17 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)127,249~255(2006)
●ドライマウス患者の唾液分泌量の変化
※Ryo K et al, Clin Biochem 44:669-74, 2011
「ドライマウス患者に、4週間にわたって還元型コエンザイムQ10を摂取してもらう試験の結果、摂取後に唾液分泌量が増えたことがわかっています」
ドライマウス患者だけでなく、歯周病患者に還元型コエンザイムQ10を摂取してもらう試験の結果もあるそうです。なお、歯周病はプラーク(歯垢)の中の細菌によって歯肉の炎症や腫れを引き起こすだけでなく、歯を支える骨を溶かして、歯を失うことにつながる疾患です。
●歯周病患者の口腔症状の改善
<歯周ポケット>
<プラーク(歯垢)付着>
※菅野ら,日歯保存誌 56(4): 386-89, 2013
「この試験では、軽度~中度の歯周病患者に、還元型コエンザイムQ10を8週間摂取してもらいます。摂取開始4週間後と8週間後に口腔内診査と唾液採取をするというものです。結果は、還元型コエンザイムQ10の摂取により、プラーク付着量は有意に低下し、歯周ポケットの増加はありませんでした。また、歯肉出血点も有意に低下し、口臭も低下傾向だったと報告されています。これらは、還元型コエンザイムQ10が歯周病による口腔内症状を改善する可能性を示しています」
エネルギーを作る重要な役割にかかわり、細胞を元気にしてくれるコエンザイムQ10。お口の潤いを保つ働きには驚きました!健やかに暮らすために、日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
取材・文/朝倉由貴