習慣としておなじみの歯みがきですが、より健康的なオーラルケアには「BIR」が大切です。この「BIR」とは、歯みがきのB:ブラッシングと、I:インターデンタルクリーニング(歯間清掃)、そしてR:リンシング(洗口)のこと。これら各ステップの解説とともに、習慣化のコツなどを解説します。
なぜ「BIR」が大切なのでしょうか。重要性のひとつとして、むし歯や歯周病を予防することがあげられます。
まずは、その原因から解説しましょう。ともに大きな要因となるのは、細菌の塊であるプラーク(歯垢)です。
食べ物を摂取するとプラーク中のむし歯菌によって酸が作られ、歯の表面からカルシウムイオンやリン酸イオンなどのミネラル成分が溶解。これを「脱灰(だっかい)」といいます。
一方、唾液中の浄化作用や緩衝作用によって口内のpHが中性付近になると、唾液中のミネラル成分が歯に戻り、健全な歯の状態へと回復。これを「再石灰化」といい、「脱灰」と「再石灰化」のバランスが崩れると、むし歯が発生します。
そしてプラーク内には歯周病の原因となる歯周病菌も存在します。これは酸素を嫌う性質を持つ嫌気性(けんきせい)の細菌であるため、居心地のよい場所を作ろうと、歯肉溝にすみつき増殖する性質をもっています。
だからこそ口内を清掃し、プラークとともにむし歯や歯周病の原因菌の除去が大切なのです。ただ、習慣として毎日歯みがきをしていても、むし歯や歯周病に悩まされる人は少なくありません。それは、歯みがきのブラッシングだけではプラークをすべて除去することができないからです。その理由やメカニズムを、歯科衛生士の大津さんに聞きました。
「理由としては、歯の構造によるものです。歯と歯の間をよくご覧になってみてください。個人差はありますが、接触している部分や、歯ぐきの周囲は少しすき間があいている部分があるかと思います。また、歯並びにも個人差もあるので、その人の口内に合わせたオーラルケアが必要です。対してハブラシにも山形やコンパクトヘッドなどさまざまな種類があり、ブラッシングにも最適なみがき方があるのですが、どうしても届かない、ブラシが当たらない部分はあります。そのため、ブラッシングでは落としきれないプラークを歯間清掃や洗口で対処することが大切なのです」(大津さん・以下同)
歯間清掃は、デンタルフロスや歯間ブラシで隙間のプラークに直接対処します。では、洗口液はどのような役割を果たしてくれるのでしょうか。
「洗口液には殺菌作用があるのですが、その種類によって効能・効果が違うんですね。役割としては、口臭予防、歯周炎予防、歯垢の付着予防などがあります。配合されている殺菌剤によっても異なります。例えば、CPC(塩化セチルピリジニウム)は、むし歯や歯周病の原因菌等様々な菌に幅広く殺菌作用を示し、またその化学構造から唾液などに含まれるタンパク質に結合して、お口の中に長く留まりやすい性質をもっているため、新たなプラークの付着を抑制してくれます」
大津さんの話は研究結果でも明らか。
ブラッシングだけではプラークは約65%程度しか除去できませんが、デンタルフロスや歯間ブラシを併用することで、約80~85%近くまで除去率がアップ。なお、デンタルフロスと歯間ブラシは適材適所で両方を活用することにより、その効果は高まります。
そして、仕上げにはお口の隅々にまでいきわたる洗口液を使うことで、さらに口内環境は良好に。ハブラシに加え、各製品をそろえることが「BIR」の第一歩といえるでしょう。
では、あらためてプラークを除去するための「BIR」をひとつずつ解説していきましょう。まずは1ステップ目「B」のブラッシングから。こちらはご存知、ハブラシでプラークをかきだすことです。
ステップ2となる「I」は、デンタルフロスや歯間ブラシで行うインターデンタルクリーニングのこと。ハブラシでは届きにくい歯間のプラークを、効率よく除去することができます。
そしてステップ3の「R」は、洗口液で行うリンシング。歯みがきの仕上げに口内をすみずみまで洗い流します。むし歯や歯周病の予防に役立ちます。
また、大津さんはもっとも効果的なB・I・Rの順番と、その理由についても以下のように話します。
「アイテムの使用順については、歯並びや歯、歯ぐきの状態などによっても異なりますが、基本的にはハブラシで全体の汚れを落としてからデンタルフロス、歯間ブラシなどの歯間清掃具を使用いただき、最後にリンシングで仕上げることをおすすめしています。
ただ、口腔内の環境も人それぞれでしょう。ですので、順序やケアの方法は歯科医院でご自身にあったオーラルケア方法を相談いただくことをおすすめします。一人ひとりのお口にあったアドバイスをいただけますので、かかりつけ歯科医院で歯科医師・歯科衛生士にご相談してみてください」
ここからは実践編。あらためて「BIR」の各ステップについて、コツなどを深掘りしていきましょう。まずはブラッシング。大前提として、ハブラシは上の前歯2本くらいの大きさを目安に選び、歯ぐきが健康な人は「ふつう」の硬さ、歯ぐきに炎症がみられる人(歯みがきの際に血が出る、歯ぐきが赤くはれている、という人)は「やわらかめ」を使いましょう。また、ハブラシは消耗品なので1カ月を目安に交換するのがおすすめです。
ハブラシの持ち方は鉛筆を持つように、毛先が広がらないぐらいの強さを目安に小刻みに動かしながら。特に、歯と歯ぐきの境目の気になるプラークを落としたい方は、ハブラシを歯面に45度にあてるようにし、1本1本丁寧にみがくのがおすすめです。
ブラッシングについて、こちらの記事でも詳しく説明しています。
次は「I」のインターデンタルクリーニング。デンタルフロスは、歯と歯の隙間に入れたら歯の側面に沿わせゆっくり上下に動かしながらみがき、終わったら無理に引っ張らず、必要に応じて片方の指の糸を外して静かに引き抜くようにします。
歯間ブラシはゴムタイプとワイヤータイプがあり、初めて歯間ブラシを使う方には優しい使い心地のゴムタイプがおすすめ。歯ぐきを傷つけないよう歯間部にゆっくり挿入し、前後に数回動かして掃除します。
最後の「R」のリンシングは、洗口液はお口に含んでクチュクチュして吐き出すだけ。仕上げに水で口をゆすぐ必要はありませんが、気になる方はゆすいでも構いません。
歯間ケア用品や洗口液について、こちらの記事でも詳しく説明しています。
このように「BIR」の3ステップを解説しましたが、Iのインターデンタルクリーニングと、Rのリンシングは、なかなかハードルが高いと感じる方も少なくないはず。自然と習慣化するコツはあるのでしょうか?
「私自身の経験としても、歯科衛生士になるまではブラッシングしかしていませんでした。デンタルフロスを面倒くさいと思っていたのですが、代わりに細いサイズの歯間ブラシやホルダー付きのデンタルフロスといった、比較的気軽に使えるアイテムから試すことで自然と習慣化できましたね」
大津さんも実際に使い始めたことで、歯みがきだけでは汚れが落としきれないことがよくわかったといいます。
「どれだけきれいに歯みがきしたつもりでも、そのあとデンタルフロスや歯間ブラシを使うとプラークが出てくるんです。毎日続けることで、『やっぱりここのプラークはブラッシングでは落ちないんだ』と気付くようになりました。ブラッシングは奥が深く、右と左でも利き手によって当て方が変わり、私の場合は歯並びの影響か左奥歯が非常に残りやすいんですね。そこを重点的に歯間清掃するようになったんですけど、自分の癖みたいなものがわかったこともあり、完全に習慣化できました。
今では、指巻きのデンタルフロスが私には最適ということもわかりましたね。みなさんもプラークの残りやすい場所がわかってくると、そこが気になるようになって、次第に習慣化できると思いますよ」
コツのひとつが、最初のハードルを下げること。たとえば「まずは何日間だけ」と小さな目標を決めて試すなど、自身の生活やライフスタイルに適した方法でトライしてみましょうと、大津さんはいいます。
「継続することが大切ですから、無理のない範囲で構いません。デンタルフロスよりも歯間ブラシのほうがやりやすいという方なら、それでもいいと思います。なお、歯間ブラシはサイズ選びも大切ですので、まずは小さいサイズを使っていただくといいでしょう。ゴム製でやわらかい『ソフトピック』というツールもありますし、気軽にできるものから試していただけたらと思います」
習慣化するコツは、アイテムと頻度を決めて目標設定すること。ハブラシはもちろん、デンタルフロスや歯間ブラシ、洗口液と、種類はさまざま。ご自身に合ったものを使って「BIR」を実践することで、よりお口の中を健やかに保つことができるでしょう。ぜひ本稿を参考に、より健康的なオーラルケアに取り組んでください。
監修者プロフィール
取材・文/中山秀明